くれた。いや、二、三日お前にムダ骨を折らしたが、おしまいに竿が手に入るなんてまあ変なことだなア。」
「竿が手に入るてえのは釣師には吉兆《きっちょう》でさア。」
「ハハハ、だがまあ雨が降っている中《うち》あ出たくねえ、雨を止《や》ませる間《あいだ》遊んでいねえ。」
「ヘイ。時に旦那、あれは?」
「あれかい。見なさい、外鴨居《そとがもい》の上に置いてある。」
吉は勝手の方へ行って、雑巾盥《ぞうきんだらい》に水を持って来る。すっかり竿をそれで洗ってから、見るというと如何にも良い竿。じっと二人は検《あらた》め気味《ぎみ》に詳しく見ます。第一あんなに濡れていたので、重くなっているべきはずだが、それがちっとも水が浸みていないようにその時も思ったが、今も同じく軽い。だからこれは全く水が浸みないように工夫がしてあるとしか思われない。それから節廻《ふしまわ》りの良いことは無類。そうして蛇口《へびぐち》の処を見るというと、素人細工《しろうとざいく》に違いないが、まあ上手《じょうず》に出来ている。それから一番太い手元の処を見るとちょいと細工がある。細工といったって何でもないが、ちょっとした穴を明け
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