て中気にいいことはありませんがネ、ハハハ。」
「そうかなア。」
それでその日は帰りました。
いつもの河岸に着いて、客は竿だけ持って家に帰ろうとする。吉が
「旦那は明日《あす》は?」
「明日も出るはずになっているんだが、休ませてもいいや。」
「イヤ馬鹿雨《ばかあめ》でさえなければあっしゃあ迎えに参りますから。」
「そうかい」と言って別れた。
あくる朝起きてみると雨がしよしよと降っている。
「ああこの雨を孕んでやがったんで二、三日|漁《りょう》がまずかったんだな。それとも赤潮《あかしお》でもさしていたのかナ。」
約束はしたが、こんなに雨が降っちゃ奴《やつ》も出て来ないだろうと、その人は家《うち》にいて、しょうことなしの書見《しょけん》などしていると、昼近くなった時分に吉はやって来た。庭口からまわらせる。
「どうも旦那、お出《で》になるかならないかあやふやだったけれども、あっしゃあ舟を持って来ておりました。この雨はもう直《じき》あがるに違《ちげ》えねえのですから参りました。御伴《おとも》をしたいともいい出せねえような、まずい後《あと》ですが。」
「アアそうか、よく来て
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