とで、誤って滑って、一番先にいたクロスへぶつかりました。そうすると、雪や氷の蔽《おお》っている足がかりもないような険峻《けんしゅん》の処で、そういうことが起ったので、忽《たちま》ちクロスは身をさらわれ、二人は一つになって落ちて行きました訳《わけ》。あらかじめロープをもって銘々《めいめい》の身をつないで、一人が落ちても他が踏《ふみ》止《とど》まり、そして個々の危険を救うようにしてあったのでありますけれども、何せ絶壁の処で落ちかかったのですから堪《たま》りません、二人に負けて第三番目も落ちて行く。それからフランシス・ダグラス卿は四番目にいたのですが、三人の下へ落ちて行く勢《いきおい》で、この人も下へ連れて行かれました。ダグラス卿とあとの四人との間でロープはピンと張られました。四人はウンと踏《ふみ》堪《こら》えました。落ちる四人と堪《こら》える四人との間で、ロープは力足らずしてプツリと切れて終《しま》いました。丁度《ちょうど》午後三時のことでありましたが、前の四人は四千尺ばかりの氷雪の処を逆《さか》おとしに落下したのです。後《あと》の人は其処《そこ》へ残ったけれども、見る見る自分たちの一行の
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