半分は逆落しになって深い深い谷底へ落ちて行くのを目にしたその心持はどんなでしたろう。それで上に残った者は狂人の如く興奮し、死人の如く絶望し、手足も動かせぬようになったけれども、さてあるべきではありませぬから、自分たちも今度は滑って死ぬばかりか、不測の運命に臨んでいる身と思いながら段々|下《お》りてまいりまして、そうして漸《ようや》く午後の六時頃に幾何《いくら》か危険の少いところまで下りて来ました。
 下りては来ましたが、つい先刻《さっき》まで一緒にいた人々がもう訳も分らぬ山の魔の手にさらわれて終《しま》ったと思うと、不思議な心理状態になっていたに相違ありません。で、我々はそういう場合へ行ったことがなくて、ただ話のみを聞いただけでは、それらの人の心の中《うち》がどんなものであったろうかということは、先ず殆《ほとん》ど想像出来ぬのでありまするが、そのウィンパーの記したものによりますると、その時夕方六時頃です、ペーテル一族の者は山登りに馴れている人ですが、その一人がふと見るというと、リスカンという方に、ぼうっとしたアーチのようなものが見えましたので、はてナと目を留《と》めておりますると、外《
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