でいても、相手が二段引きの鯛ですから、慣れてくればしずかに茶碗を下に置いて、そうして釣っていられる。酒の好きな人は潮間《しおま》などは酒を飲みながらも釣る。多く夏の釣でありますから、泡盛《あわもり》だとか、柳蔭《やなぎかげ》などというものが喜ばれたもので、置水屋《おきみずや》ほど大きいものではありませんが上下箱《じょうげばこ》というのに茶器酒器、食器も具《そな》えられ、ちょっとした下物《さかな》、そんなものも仕込まれてあるような訳です。万事がそういう調子なのですから、真に遊びになります。しかも舟は上《じょう》だな檜《ひのき》で洗い立ててありますれば、清潔この上なしです。しかも涼しい風のすいすい流れる海上に、片苫《かたとま》を切った舟なんぞ、遠くから見ると余所目《よそめ》から見ても如何《いか》にも涼しいものです。青い空の中へ浮上《うきあが》ったように広々《ひろびろ》と潮が張っているその上に、風のつき抜ける日蔭のある一葉《いちよう》の舟が、天から落ちた大鳥《おおとり》の一枚の羽のようにふわりとしているのですから。
それからまた、澪釣《みよづり》でない釣もあるのです。それは澪で以《もっ》て
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