あたりを見せて、それからちょっとして本当に食うものでありまするから、竿先の動いた時に、来たナと心づきましたら、ゆっくりと手を竿尻にかけて、次のあたりを待っている。次に魚がぎゅっと締める時に、右の竿なら右の手であわせて竿を起し、自分の直《すぐ》と後ろの方へそのまま持って行くので、そうすると後ろに船頭がいますから、これが※[#「※」は「てへん+黨」、20−13]網《たま》をしゃんと持っていまして掬《すく》い取ります。大きくない魚を釣っても、そこが遊びですから竿をぐっと上げて廻して、後ろの船頭の方に遣《や》る。船頭は魚を掬って、鉤《はり》を外《はず》して、舟の丁度|真中《まんなか》の処に活間《いけま》がありますから魚を其処《そこ》へ入れる。それから船頭がまた餌《えさ》をつける。「旦那、つきました」と言うと、竿をまた元へ戻して狙ったところへ振込むという訳であります。ですから、客は上布《じょうふ》の着物を着ていても釣ることが出来ます訳で、まことに綺麗事《きれいごと》に殿様らしく遣《や》っていられる釣です。そこで茶の好きな人は玉露《ぎょくろ》など入れて、茶盆《ちゃぼん》を傍《そば》に置いて茶を飲ん
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