防ぎますから、ちゃんと座敷のようになるので、それでその苫の下|即《すなわ》ち表の間――釣舟《つりぶね》は多く網舟《あみぶね》と違って表の間が深いのでありますから、まことに調子が宜《よろ》しい。そこへ茣蓙《ござ》なんぞ敷きまして、その上に敷物《しきもの》を置き、胡坐《あぐら》なんぞ掻《か》かないで正しく坐っているのが式《しき》です。故人|成田屋《なりたや》が今の幸四郎《こうしろう》、当時の染五郎《そめごろう》を連れて釣に出た時、芸道舞台上では指図を仰いでも、勝手にしなせいと突放《つっぱな》して教えてくれなかったくせに、舟では染五郎の座りようを咎《とが》めて、そんな馬鹿な坐りようがあるかと激しく叱ったということを、幸四郎さんから直接に聞きましたが、メナダ釣、ケイズ釣、すずき釣、下品でない釣はすべてそんなものです。
 それで魚が来ましても、また、鯛の類というものは、まことにそういう釣をする人々に具合の好く出来ているもので、鯛の二段引きと申しまして、偶《たま》には一度にガブッと食べて釣竿を持って行くというようなこともありますけれども、それはむしろ稀有《けう》の例で、ケイズは大抵は一度釣竿の先へ
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