んで、舟首《みよし》近く、甲板《かっぱ》のさきの方に亙《わた》っている簪《かんこ》の右の方へ右の竿、左の方へ左の竿をもたせ、その竿尻《さおじり》をちょっと何とかした銘々《めいめい》の随意の趣向でちょいと軽く止めて置くのであります。そうして客は端然として竿先を見ているのです。船頭は客よりも後ろの次の間《ま》にいまして、丁度お供のような形に、先ずは少し右舷《うげん》によって扣《ひか》えております。日がさす、雨がふる、いずれにも無論のこと苫《とま》というものを葺《ふ》きます。それはおもての舟梁《ふなばり》とその次の舟梁とにあいている孔《あな》に、「たてじ」を立て、二のたてじに棟《むね》を渡し、肘木《ひじき》を左右にはね出させて、肘木と肘木とを木竿で連《つら》ねて苫を受けさせます。苫一枚というのは凡《およ》そ畳《たたみ》一枚より少し大きいもの、贅沢《ぜいたく》にしますと尺長《しゃくなが》の苫は畳一枚のよりよほど長いのです。それを四枚、舟の表《おもて》の間《ま》の屋根のように葺くのでありますから、まことに具合好く、長四畳《ながよじょう》の室《へや》の天井のように引いてしまえば、苫は十分に日も雨も
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