生じます訳《わけ》で、怖《おそろ》しい話が伝えられております。海もまた同じことです。今お話し致そうというのは海の話ですが、先に山の話を一度申して置きます。
それは西暦千八百六十五年の七月の十三日の午前五時半にツェルマットという処《ところ》から出発して、名高いアルプスのマッターホルンを世界始まって以来最初に征服致しましょうと心ざし、その翌十四日の夜明前《よあけまえ》から骨を折って、そうして午後一時四十分に頂上へ着きましたのが、あの名高いアルプス登攀記《とうはんき》の著者のウィンパー一行でありました。その一行八人がアルプスのマッターホルンを初めて征服したので、それから段々とアルプスも開《ひら》けたような訳です。
それは皆様がマッターホルンの征服の紀行によって御承知の通りでありますから、今|私《わたくし》が申さなくても夙《つと》に御合点《ごがてん》のことですが、さてその時に、その前から他の一行|即《すなわ》ち伊太利《イタリー》のカレルという人の一群がやはりそこを征服しようとして、両者は自然と競争の形になっていたのであります。しかしカレルの方は不幸にして道の取り方が違っていたために、ウィ
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