さ》け開《ひら》けているその間に身を隠《かく》して、見咎《みとが》められまいと潜《ひそ》んでいると、ちょうど前に我が休んだあたりのところへ腰を下して憩《やす》んだらしくて、そして話をしているのは全《まった》く叔父で、それに応答《うけこた》えをしているのは平生《ふだん》叔父の手下になっては※[#「峠」の「山へん」が「てへん」、第3水準1−84−76、73−8]ぐ甲助《こうすけ》という村の者だった。川音と話声と混《まじ》るので甚《ひど》く聞き辛《づら》くはあるが、話の中《うち》に自分の名が聞えたので、おのずと聞き逸《はず》すまいと思って耳を立てて聞くと、「なあ甲助、どうせ養子をするほども無い財産《しんだい》だから、嚊《かかあ》が勧める嚊の甥なんぞの気心も知れねえ奴《やつ》を入れるよりは、怜悧《りこう》で天賦《たち》の良《い》いあの源三におらが有《も》ったものは不残《みんな》遣《や》るつもりだ。そうしたらあいつの事だから、まさかおらが亡くなったっておらの墓《はか》を草ん中に転《ころ》げさせてしまいもすめえと思うのさ。前の嚊にこそ血筋《ちすじ》は引け、おらには縁の何も無いが、おらあ源三が可愛く
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