うとしたじゃあないか。吾家《うち》の母《おっか》さんが与惣次《よそうじ》さんところへ招《よ》ばれて行った帰路《かえり》のところへちょうどおまえが衝突《ぶつか》ったので、すぐに見つけられて止められたのだが、後で母様《おっかさん》のお話にあ、いくら下りだって甲府までは十里近くもある路を、夜にかかって食物の準備《ようい》も無いのに、足ごしらえも無しで雪の中を行こうとは怜悧《りこう》のようでも真実《ほんと》に児童《こども》だ、わたしが行き合って止めでもしなかったらどんな事になったか知れやしない、思い出しても怖《おそろ》しい事だと仰《おっし》ゃったよ。そればかりじゃあ無い、奉公をしようと云ったって請人《うけにん》というものが無けりゃあ堅《かた》い良い家《うち》じゃあ置いてくれやしないし、他人ばかりの中へ出りゃあ、この児はこういう訳のものだから愍然《かわいそう》だと思ってくれる人だって有りゃあしない。だから他郷《よそ》へ出て苦労をするにしても、それそれの道順を踏《ふ》まなければ、ただあっちこっちでこづき廻《まわ》されて無駄《むだ》に苦しい思《おもい》をするばかり、そのうちにあ碌《ろく》で無い智慧《
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