が酷《むご》い叔母《おば》に窘《くるし》められる談《はなし》を前々から聞いて知っている上に、しかも今のような話を聞いたのでいささか涙《なみだ》ぐんで茫然《ぼうぜん》として、何も無い地《つち》の上に眼を注いで身動もしないでいた。陽気な陽気な時節ではあるがちょっとの間はしーんと静になって、庭の隅《すみ》の柘榴《ざくろ》の樹《き》の周《まわ》りに大きな熊蜂《くまばち》がぶーんと羽音《はおと》をさせているのが耳に立った。

   その三

 色々な考えに小《ちいさ》な心を今さら新《あらた》に紛《もつ》れさせながら、眼ばかりは見るものの当《あて》も無い天《そら》をじっと見ていた源三は、ふっと何《なん》の禽《とり》だか分らない禽の、姿も見えるか見えないか位に高く高く飛んで行くのを見つけて、全くお浪に対《むか》ってでは無い語気で、
「禽は好《い》いなア。」
と呻《うめ》き出した。
「エッ。」
と言いながら眼を挙《あ》げて源三が眼の行く方《かた》を見て、同じく禽の飛ぶのを見たお浪は、たちまちにその意《こころ》を悟《さと》って、耐《た》えられなくなったか※[#「さんずい+玄」、第3水準1−86−62、6
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