の方の事だから高いには相違《そうい》ないが、恐《おそ》ろしい高い山々が、余り高くって天に閊《つか》えそうだからわざと首を縮《すく》めているというような恰好《かっこう》をして、がん張《ば》っている状態《ありさま》は、あっちの邦土《くに》は誰《だれ》にも見せないと、意地悪く通《とお》せん坊《ぼう》をしているようにも見える位だ。その恐ろしい山々の一《ひ》ト列《つらな》りのむこうは武蔵《むさし》の国で、こっちの甲斐《かい》の国とは、まるで往来《ゆきかい》さえ絶えているほどである。昔時《むかし》はそれでも雁坂越と云《い》って、たまにはその山を越して武蔵へ通った人もあるので、今でも怪《あや》しい地図に道路《みち》があるように書いてあるのもある。しかしこの釜和原から川上へ上《のぼ》って行くと下釜口《しもかまぐち》、釜川《かまがわ》、上釜口《かみかまぐち》というところがあるが、それで行止りになってしまうのだから、それから先はもうどこへも行きようは無いので、川を渡《わた》って東岸《ひがしぎし》に出たところが、やはり川下へ下《さが》るか、川浦《かわうら》という村から無理に東の方へ一ト山越して甲州|裏街道《
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