れたりした。或場処は路が対岸に移るやうになつてゐる為に、危い略※[#「彳+勺」、155−下−16]《まるきばし》が目の眩《くるめ》くやうな急流に架つて居るのを渡つたり、又|少時《しばらく》して同じやうなのを渡り反つたりして進んだ。恐ろしい大きな高い巌が前途《ゆくて》に横たはつてゐて、あのさきへ行くのか知らんと疑はれるやうな覚束ない路を辿つて行くと、辛うじて其の岩岨《いはそば》に線《いと》のやうな道が付いて居て、是非無くも蟻の如く蟹の如くになりながら通り過ぎてはホッと息を吐くことも有つて、何だつてこんな人にも行会はぬ所謂僻地窮境に来たことかと、聊か後悔する気味にもならざるを得ないで、薄暗いほどに茂つた大樹の蔭に憩ひながら明るく無い心持の沈黙を続けてゐると、ヒーッ、頭の上から名を知らぬ禽が意味の分らぬ歌を投げ落したりした。
路が漸く緩くなると、対岸は馬鹿※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]しく高い巌壁になつて居る其下を川が流れて、此方《こちら》は山が自然に開けて、少しばかり山畠が段※[#二の字点、1−2−22]を成して見え、粟や黍が穂を垂れて居るかとおもへば、兎に
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