ト蔵海先生実に頼もしい。平常は一[#(ト)]通りの意地が無くもない晩成先生も、こゝに至つて多力宗になつて仕舞つて、たゞもう世界に力とするものは蝙蝠傘一本、其の蝙蝠傘の此方《こつち》は自分が握つてゐるが、彼方《むかふ》は真の親切者が握つてゐるのだか狐狸が握つて居るのだが、妖怪変化、悪魔の類が握つてゐるのだか、何だか彼だかサッパり分らない黒闇※[#二の字点、1−2−22]《こくあん/\》の中を、兎に角後生大事にそれに縋つて随つて歩いた。
水は段※[#二の字点、1−2−22]足に触れなくなつて来た。爪先上りになつて来たやうだ。やがて段※[#二の字点、1−2−22]勾配が急になつて来た。坂道にかゝつたことは明らかになつて来た。雨の中にも滝の音は耳近く聞えた。
もうこゝを上りさへすれば好いのです。細い路ですからね、わたくしも路で無いところへ踏込《ふんご》むかも知れませんが、転びさへしなければ草や樹で擦りむく位ですから驚くことは有りません。ころんではいけませんよ、そろ/\歩いてあげますからね。
ハハイ、有り難う。
ト全く顫へ声だ。何様して中※[#二の字点、1−2−22]足が前へ出るものでは無
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