が、例の土間のところへ来ると、そこには蓑笠が揃へてあつた。若僧は先づ自ら尻を高く端折つて蓑を甲斐※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]しく手早く着けて、そして大器氏にも手伝つて一ツの蓑を着けさせ、竹の皮笠を被せ、其紐を緊《きび》しく結んで呉れた。余り緊しく結ばれたので口を開くことも出来ぬ位で、随分痛かつたが、黙つて堪へると、若僧は自分も笠を被つて、
サア、
と先へ立つた。提灯の火はガランとした黒い大きな台所に憐れに小さな威光を弱※[#二の字点、1−2−22]と振つた。外は真暗で、雨の音は例の如くザアッとして居る。
気をつけてあげろ、ナ。
と和尚は親切だ。高※[#二の字点、1−2−22]とズボンを捲り上げて、古草鞋《ふるわらぢ》を着けさせられた晩成|子《し》は、何処へ行くのだか分らない真黒暗《まつくらやみ》の雨の中を、若僧に随つて出た。外へ出ると驚いた。雨は横振りになつてゐる、風も出てゐる。川鳴の音だらう、何だか物凄い不明の音がしてゐる。庭の方へ廻つたやうだと思つたが、建物を少し離れると、成程もう水が来てゐる。足の裏が馬鹿に冷い。親指が没する、踝《くるぶし》が没
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