/\と風の柳のやうに室へ入り込んだ大器氏に対つて、一刀をピタリと片身青眼に擬《つ》けたといふ工合に手丈夫な視線を投げかけた。晩成先生聊かたぢろいだが、元来正直な君子で仁者敵無しであるから驚くことも無い、平然として坐つて、来意を手短に述べて、それから此処を教へて呉れた遊歴者の噂をした。和尚は其姓名を聞くと、合点が行つたのかして、急にくつろいだ様子になつて、
アヽ、あの風吹烏《かざふきがらす》から聞いておいでなさつたかい。宜うござる、いつまででもおいでなさい。何室《どこ》でも明いてゐる部屋に勝手に陣取らつしやい、其代り雨は少し漏るかも知れんよ。夜具はいくらもある。綿は堅いがナ。馳走はせん、主客平等と思はつしやい。蔵海《ざうかい》、(仮設し置く)風呂は門前の弥平爺にいひつけての、明日から毎日立てさせろ。無銭《たゞ》ではわるい、一日三銭も遣はさるやうに計らへ。疲れてだらう、脚を伸ばして休息せらるゝやうにしてあげろ。
蔵海は障子を開けて庭へ面した縁へ出て導いた。後に跟いて縁側を折曲つて行くと、同じ庭に面して三ツ四ツの装飾も何も無い空室《あきま》があつて、縁の戸は光線を通ずる為ばかりに三寸か四
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