学に就くといふ訳には出来なかつたので、田舎の小学を卒ると、やがて自活生活に入つて、小学の教師の手伝をしたり、村役場の小役人みたやうなことをしたり、いろ/\困苦勤勉の雛型其物の如き月日を送りながらに、自分の勉強をすること幾年であつた結果、学問も段※[#二の字点、1−2−22]進んで来るし人にも段※[#二の字点、1−2−22]認められて来たので、いくらか手蔓も出来て、遂に上京して、やはり立志篇的の苦辛《くしん》の日を重ねつゝ、大学にも入ることを得るに至つたので、それで同窓中では最年長者――どころでは無い、五ツも六ツも年上であつたのである。蟻が塔を造るやうな遅※[#二の字点、1−2−22]たる行動を生真面目に取つて来たのであるから、浮世の応酬に疲れた皺をもう額に畳んで、心の中にも他の学生にはまだ出来て居らぬ細かい襞※[#「ころもへん+責」、第3水準1−91−87]《ひだ》が出来てゐるのであつた。然し大学に在る間だけの費用を支へるだけの貯金は、恐ろしい倹約と勤勉とで作り上げてゐたので、当人は初めて真の学生になり得たやうな気がして、実に清浄純粋な、いぢらしい愉悦と矜持《きようぢ》とを抱いて、余念
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