っているのだか、妖怪変化、悪魔の類《たぐい》が握っているのだか、何だか彼《か》だかサッパり分らない黒闇※[#二の字点、1−2−22]《こくあんあん》の中を、とにかく後生《ごしょう》大事にそれに縋《すが》って随《したが》って歩いた。
 水は段※[#二の字点、1−2−22]足に触れなくなって来た。爪先上《つまさきあが》りになって来たようだ。やがて段※[#二の字点、1−2−22]|勾配《こうばい》が急になって来た。坂道にかかったことは明らかになって来た。雨の中にも滝の音は耳近く聞えた。
 もうここを上《のぼ》りさえすれば好いのです。細い路ですからね、わたくしも路でないところへ踏込《ふんご》むかも知れませんが、転びさえしなければ草や樹で擦りむく位ですから驚くことはありません。ころんではいけませんよ、そろそろ歩いてあげますからね。
 ハハイ、有り難う。
ト全く顫《ふる》え声だ。どうしてなかなか足が前へ出るものではない。
 こうなると人間に眼のあったのは全く余り有り難くありませんね、盲目《めくら》の方がよほど重宝《ちょうほう》です、アッハハハハ。わたくしも大分小さな樹の枝で擦剥《すりむ》き疵《きず
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