かく》平等と思わっしゃい。蔵海《ぞうかい》、(仮設し置く)風呂は門前の弥平爺《やへいじい》にいいつけての、明日《あす》から毎日立てさせろ。無銭《ただ》ではわるい、一日に三銭も遣《つか》わさるように計らえ。疲れてだろう、脚を伸ばして休息せらるるようにしてあげろ。
 蔵海は障子を開けて庭へ面した縁へ出て導いた。後《あと》に跟《つ》いて縁側を折曲《おれまが》って行くと、同じ庭に面して三ツ四ツの装飾も何もない空室《あきま》があって、縁の戸は光線を通ずるためばかりに三|寸《ずん》か四寸位ずつすかしてあるに過ぎぬので、中はもう大《おおい》に暗かった。此室《ここ》が宜《よ》かろうという蔵海の言《ことば》のままその室の前に立っていると、蔵海は其処《そこ》だけ雨戸を繰《く》った。庭の樹※[#二の字点、1−2−22]《きぎ》は皆雨に悩んでいた。雨は前にも増して恐しい量で降って、老朽《おいく》ちてジグザグになった板廂《いたびさし》からは雨水がしどろに流れ落ちる、見ると簷《のき》の端に生えている瓦葦《しのぶぐさ》が雨にたたかれて、あやまった、あやまったというように叩頭《おじぎ》しているのが見えたり隠れたりして
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