なさって御上《おあが》りなさいまし。
 しめたと思って晩成先生|泥靴《どろぐつ》を脱ぎ足を洗って導かるるままに通った。入口の室《へや》は茶の間と見えて大きな炉《ろ》が切ってある十五、六畳の室であった。そこを通り抜けて、一畳|幅《はば》に五畳か六畳を長く敷いた入側《いりかわ》見たような薄暗い部屋を通ったが、茶の間でもその部屋でも処※[#二の字点、1−2−22]《しょしょ》で、足踏《あしぶみ》につれてポコポコと弛《ゆる》んで浮いている根太板《ねだいた》のヘンな音がした。
 通されたのは十畳位の室で、そこには大きな矮《ひく》い机を横にしてこちらへ向直《むきなお》っていた四十ばかりの日に焦《や》けて赭《あか》い顔の丈夫そうなズク入《にゅう》が、赤や紫の見える可笑《おか》しいほど華美《はで》ではあるがしかしもう古びかえった馬鹿に大きくて厚い蒲団《ふとん》の上に、小さな円《まる》い眼を出来るだけ※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]開《そうかい》してムンズと坐り込んでいた。麦藁帽子を冠《かぶ》らせたら頂上《てっぺん》で踊《おどり》を踊りそうなビリケン頭《あたま》に能《よ》く実《み》が入っていて
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