乱の時のような態度を取って居た日には、武道も立たぬし、秀吉の眼も瞋《いか》ろうし、木村父子を子とも旗下とも思えと、秀吉に前以て打って置かれた釘がヒシヒシと吾《わが》胸に立つ訳である。で、氏郷は町野に対して、汝の諫言を破るでは無いが、何様《どう》も然様《そう》は成りかねる、仮令《たとい》運|拙《つたな》く時利あらずして吾が上はともなれかくもなれ、子とも見よ、親とも仰げと殿下の云われた木村父子を見継がぬならば、我が武道は此後全く廃《すた》る、と云切った。町野も合点の悪い男ではなかった。老眼に涙を浮べて、御尤《ごもっとも》の御仰と承わりました、然らば某《それがし》も一期《いちご》の御奉公、いさぎよく御[#(ン)]先を駈け申そう、と皺腕《しわうで》をとりしぼって部署に就く事に決した。斯様《こう》いう思慮を抱き、斯様いう決着を敢てしたのは必ず町野のみでは無かったろう、一族譜代の武士達には、よくよく沸《たぎ》り切った魂の持主と、分別の遠く届く者を除いては、随分数多いことで有ったろうし、そして皆氏郷の立場を諒解するに及んで、奮然として各自の武士魂に紫色や白色の火※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−
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