も加わってであろうが、氏郷を吾《わ》が館《やかた》に入れまいらせてから、密《ひそか》に諫言《かんげん》を上《たてまつ》って、今此の寒天に此処より遥に北の奥なるあたりに発向したまうとも、人馬も労《つか》れて働きも思うようにはなるまじく、不案内の山、川、森、沼、御勝利を得たまうにしても中々容易なるまじく思われまする、ここは一応こらえたまいて、来年の春を以て御出なされては如何でござる、と頻《しき》りに止めたのである。町野繁仍の言も道理では有るが、それはもう魂の火炎が衰えている年寄武者の意見である。氏郷此時は三十五歳で有ったから、氏郷の乳母は少くとも五十以上、其夫の繁仍は六十近くでもあったろう。老人と老馬は安全を得るということに就ては賢いものであるから、大抵の場合に於て老人には従い、老馬には騎《の》るのが危険は少い。けれども其は無事の日の事である。戦機の駈引には安全第一は寧《むし》ろ避く可きであり、時少く路長き折は老馬は取るべからずである。今起った一揆《いっき》は少しでも早く対治して終《しま》って其の根を張り枝を茂らせぬ間に芟除《かりのぞ》き抜棄てるのを機宜《きぎ》の処置とする。且又信雄が明智
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