自分はそんな不法行為をしなかったけれども「命令雑婚」を行わせたらしく想われる。何処の領主でも兵卒を多く得たいものは然様《そう》いうことを敢てするを忌まなかったから、共婚主義などは随分古臭いことである。滅茶苦茶《めちゃくちゃ》なことの好きなものには実に好い世であった。
斯様いう恐ろしい、そして馬鹿げた世が続いた後に、民衆も目覚めて来れば為政者権力者も目覚めて来かかった時、此世に現われて、自らも目覚め、他をも目覚めしめて、混乱と紛糾に陥っていたものを「整理」へと急がせることに骨折った者が信長であった、秀吉であった。醍醐《だいご》の醍の字を忘れて、まごまごして居た佑筆《ゆうひつ》に、大の字で宜いではないかと云った秀吉は、実に混乱から整理へと急いで、譬《たと》えば乱れ垢《あか》づいた髪を歯の疎《あら》い丈夫な櫛《くし》でゴシゴシと掻いて整え揃えて行くようなことをした人であった。多少の毛髪は引切っても引抜いても構わなかった。其為に少し位は痛くっても関《かま》うものかという調子で遣りつけた。ところが結ぼれた毛の一[#(ト)]かたまりグッと櫛の歯にこたえたものがあった。それは関八州横領の威に誇って
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