きな鴨をこれから※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]《く》おうとして涎《よだれ》まで出したところを取上げられて終った犬のような位置に立たせられたのである。関白はじめ諸大将等が帰って終って見ると何とかしたい。何とかする段には仕方はいくらでもある。仕方が無ければ手も引込めて居るのだが、仕方が有るから手が出したくなる。然し氏郷という重石《おもし》は可なり重そうである。氏郷は白河をば関|右兵衛尉《うひょうえのじょう》、須賀川をば田丸|中務少輔《なかつかさしょうゆう》、阿子《あこ》が嶋《しま》をば蒲生源左衛門、大槻を蒲生忠右衛門、猪苗代を蒲生四郎兵衛、南山を小倉孫作、伊南《いなみ》を蒲生左文、塩川を蒲生喜内、津川を北川平左衛門に与えて、武威も強く政治も届く様子だから、政宗も迂闊《うかつ》に手を掛ける訳にはゆかぬ。斯様なると暴風雨は弱い塀に崇《たた》る道理で、魔の手は蒲生へ向うよりは葛西大崎の新領主となった木村伊勢守父子の方へ向って伸ばされ出した。木村父子は武辺も然程《さほど》では無く、小勢でもある。伊勢父子がドジを踏んでマゴマゴすれば蒲生は之を捨てて置く訳にはゆかぬ、伊勢父子の居る地方と蒲
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