くなる。それでも剛情に今一[#(ト)]勝負したいと、それでは乃公《おれ》は土蔵一ツ賭ける、土蔵一ツをなにがし両のつもりにしろ、負けたら今度戦の有る節には必ず乃公が土蔵一ツを引渡すからと云うと、其男が約を果せるらしい勇士だと、ウン好かろうというので、其の口約束に従ってコマを廻して呉れる。ひどい事だ。自分の土蔵でも無いものを、分捕《ぶんどり》して渡す口約束で博奕を打つ。相手のものでも無いのに博奕で勝ったら土蔵一[#(ト)]戸前受取るつもりで勝負をする。斯様いうことが稀有《けう》では無かったから雑書にも記されて伝わっているのだ。これでは資本の威力もヘチマも有ったものでは無い。然様かと思うと一方の軍が敵地へ行向う時に、敵地でも無く吾《わ》が地でも無い、吾が同盟者の土地を通過する。其時其の土地の者が敵方へ同情を寄せていると、通過させなければ明白な敵対行為になるので武力を用いられるけれども、通過させることは通過させておいて、民家に宿舎することを同盟謝絶して其一軍に便宜を供給しない。詰り遊歴者諸芸人を勤倹同盟の村で待遇するように待遇する。すると其軍の大将が武力を用いれば何とでも随意に出来るけれど、好
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