]、見崩れする奴ほど人間の屑《くず》は無いが、扨《さて》大抵の者は聞怯じもする、見崩れもするもので、独逸《ドイツ》のホラアフク博士が地球と彗星《すいせい》が衝突すると云ったと聞いては、眼の色を変えて仰天し、某国のオドカシック号という軍艦の大砲を見ては、腰が抜けそうになり、新学説、新器械だ、ウヘー、ハハアッと叩頭する類《たぐい》は、皆是れ聞怯じ見崩れの手合で、斯様《こう》いう手合が多かったり、又大将になっていたりして呉れては、戦ならば大敗、国なら衰亡する。平治の戦の大将藤原信頼は重盛に馳向われて逃出して終《しま》った。あの様な見崩れ人種が大将では、義朝や悪源太が何程働いたとて勝味は無い。鞭声《べんせい》粛々夜河を渡った彼《か》の猛烈な謙信勢が暁の霧の晴間から雷火の落掛るように哄《どっ》と斬入った時には、先ず大抵な者なら見ると直に崩れ立つところだが、流石《さすが》は信玄勢のウムと堪《こら》えたところは豪快|淋漓《りんり》で、斬立てられたには違無かろうが実に見上げたものだ。政宗の秀吉に於ける態度の明らかに爽《さわ》やかで無かったのは、潔癖の人には不快の感を催させるが、政宗だとて天下の兵を敵に
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