るで様子が違っている。勝形は少しも無く、敗兆は明らかに見えていた。然し北条も大々名だから、上方勢と関東勢との戦はどんなものだろうと、上国の形勢に達せぬ奥羽の隅に居た者の思ったのも無理は無い。又政宗も朝命を笠に被《き》て秀吉が命令ずくに、自分とは別に恨も何も無い北条攻めに参会せよというのには面白い感情を持とう筈は無かった。そこで北条が十二分に上方勢と対抗し得るようならば、上方勢の手並の程も知れたものだし、何も慌てて降伏的態度に出る必要は無いし、且《かつ》北条が敵し得ぬにしても長く堪え得るようならば、火事は然程《さほど》に早く吾《わ》が廂《ひさし》へ来るものでは無い、と考えて、狡黠《こうかつ》には相違無いが、他人|交際《づきあい》の間柄ではあり、戦乱の世の常であるから、形勢観望、二[#(タ)]心抱蔵と出かけて、秀吉の方の催促にも畏《かしこ》まり候とは云わずに、ニヤクヤにあしらっていた。一ツは関東は関東の国自慢、奥羽は奥羽の国自慢があって、北条氏が源平の先蹤を思えば、奥羽は奥羽で前九年後三年の先蹤を思い、武家の神のような八幡太郎を敵にしても生やさしくは平らげられなかった事実に心強くされて居た
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