城と申す敵城有って、先手の四人合戦仕った、と述べた。サアここである。氏郷がここで名生の城に取掛けて手間取って居れば、四年前の小山田筑前と同じ事になって、それよりも猶《なお》甚だしい不利の場合に身を置くことになるのである。鏖殺《おうさつ》さるべき運命を享受する位置に立つのである。
氏郷は真に名生の城が前途に在ったことを知らなかったろうか。種々の書には全く之を知らずに政宗に欺かれたように記してある。成程氏郷の兵卒等は知らなかったろうが、氏郷が知らなかったろうとは思えぬ。縮みかえって居た小田原を天下の軍勢と共に攻めた時にさえ、忍びの者を出して置いて、五月三日の夜の城中からの夜討を知って、使番を以て陣中へ夜討が来るぞと触れ知らせた程に用意を怠らぬ氏郷である。まして未だ曾《かつ》て知らぬ敵地へ踏込む戦、特《こと》に腹の中の黒白《こくびゃく》不明な政宗を後へ置いて、三里五里の間も知らぬ如き不詮議の事で真黒闇《まっくらやみ》の中へ盲目探りで進んで行かれるものでは無い。小田原の敵の夜討を知ったのは、氏郷の伊賀衆の頭《かしら》、忍びの上手《じょうず》と聞えし町野輪之丞という者で、毎夜毎夜忍びて敵城を窺
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