将を遣わしたのに本づくので、中新田の城の外郭《そとぐるわ》までは奪《と》ったが、其間に各処の城々より敵兵が切って出たからである。譬《たと》えば一箇の獣《けもの》と相搏《あいう》って之を獲ようとして居る間に、四方から出て来た獣に脚を咬《か》まれ腹を咬まれ肩を攫《つか》み裂かれ背を攫み裂かれて倒れたようなものである。氏郷は今それと同じ運命に臨まんとしている。何故といえば氏郷は中新田城に拠って居るとは云え、中新田を距《さ》ること幾許《いくばく》も無いところに、名生《めふ》の城というのがあって、一揆が籠っている。小さい城では有るが可なり堅固の城である。氏郷が高清水の方へ進軍して行けば、戦術の定則上、是非其の途中の敵城は落さねばならぬ。其名生の城にして防ぎ堪えれば、氏郷に於ける名生の城は恰《あたか》も小山田筑前に於ける中新田の城と同じわけになるのである。しかも政宗は高清水の城まで敵の城は無いと云ったのであるから、蒲生軍は名生の城というのが有って一揆が籠って居ることを知らぬのである。されば氏郷は明日名生の城に引かかったが最期である、よしんば政宗が氏郷に斬って掛らずとも、傍観の態度を取るだけとしても
前へ 次へ
全153ページ中118ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング