れて、特《こと》に仕立ててくれた手※[#「戔+りっとう」、第3水準1−14−63]舟《てこぎぶね》二隻に分乘して、湯の湖を廻つた。湖は中禪寺湖より遙に小さいが、周圍の樹木の鬱々と茂つて、その枝も葉も今|將《まさ》に水に入らんとするほど重げに撓々《たわ/\》に湖面に蔽ひかぶさつてゐるところや、藻の花が處々に簇《む》れ咲いたり、杉木賊《すぎとくさ》といふ杉菜の如く木賊の如き一種の水草が淺處にすく/\としてゐたりするさまは、まるで繪の如く小じんまりしてゐて、仙人の庭の池では無いかと思はれるやうな氣がする。南岸には石楠花《しやくなげ》が簇生してゐて、今は花はすがれてゐるが、花時の美しさは思ひ遣られる。兎島といふ半島的突出の北部の灣形に入り込んだところなどは、何樣《どう》見ても茶人的の大庭の池の甚だ寂び古びたやうな感じで、幽雅愛すべきである。この景色を取入れて別莊を設けた人の無いのが不思議な位である。

    七

 三十七八年前になる。自分は湯元から金精峠《こんじやうたうげ》を越えて沼田の方へ出たことがあるが、今はその頃よりは甚だ開けて、西澤金山などがその後開けたために、又群馬の方の菅沼等も
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