九百石と八百石との船を新に造り、律義なる水主《かこ》船頭を載せて羽州能代に下しけるに、思ふまゝなる仕合せを得、二年目に万事さし引《ひい》て六貫目の利を見たり。是より商ひの拍子にのつて米木綿の買ひ込み、塩浜の思ひ入、ひとつもはづさず、さいて取る鳥飼の里より養子して、猶それに指図して、いよ/\分限者となり、以前にまさる目出度《めでたき》家のしるし、叶の字かくれ無く栄え時めきぬ。これは團水が、朝顔の花につけ、面白く想を構へて作り出せるものがたりなり。花もめでたし、ものがたりもめでたし。花の風情はまことにこの物語に云へるが如し、人のさとりはこの物語にあらはしたるが如くならぬが多きぞ口惜しき。

      木芙蓉

 木芙蓉は葉も眼やすく花ことに美し。秋の花にて菊を除きては美しさこれに及ぶべきもの無し。睛※[#「※」は「雨かんむり+文」、第3水準1−93−69、146−10]《せいぶん》といふ女の死して此花を司《つかさど》る神となりしときゝ、恋しさのあまり、男、此花の美しく咲きたる前に黄昏の露深きをも厭はず額づきて、羣花の蕊《ずゐ》、氷鮫の※[#「※」は「穀のへんにある禾が系」、読みは「こく」
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