て求むべし、威を以て劫《おびやか》すべからずとて、左に璧を操《と》り右に剣を操り、蛟を撃ちて皆殺しにしけるとぞ。かゝる人なりければ其|面貌《つらつき》も恐ろしげに荒びて夷《えびす》などの如くなりけむ、孔子も貌を以て人を取りつ之を子羽に失しぬと云ひ玉へり。まるめろを子羽に擬《よそ》へんは烏滸の限りなれど、子羽といひし人、おほよそは喩へば此樹の如くにもありけむと、其後此花を見るたびに思ふも、花の添へたる智慧なれや。
胡蝶花
しやが、鳶尾草《いちはつ》は同じ類なり。相模、上野あたりにて見かくる事多し。射干《ひあふぎ》にも似、菖蒲《あやめ》にも似たる葉のさま、燕子花《かきつばた》に似たる花のかたち、取り出でゝ云ふべきものにもあらねど、さて捨てがたき風情あり。雨の後など古き茅屋《かやや》の棟に咲ける、おもしろからずや。すべて花は家の主人《あるじ》が眼の前に植ゑらるゝが多きに、此花ばかりは頭の上に植ゑらるゝこと多きも、あやしき花の徳といふものにや。おもへばをかし。
躑躅花
つゝじは品多し。花紅にして単弁《ひとへ》なるもの、珍しからねど真《まこと》の躑躅花のおもむ
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