移されずして、其居るところの俗を易ふるがごとし。出師の表を読みて涙をおとさぬ人は猶友とすべし、この花好まざらん男は奴とするにも堪へざらん。
紅梅
紅梅の香なきは艶なる女の歌ごゝろ無きが如し。香あるはいと嬉し。まだ新しくて青き光失せぬ建仁寺籬折りまはしたる小さき坪の中に咲き出でたる、あるはまたよろづ黒みわたりたる古き大寺の書院の椽近く※[#「※」は「均のつくり」、読みは「にほひ」、第3水準1−14−75、123−2]ひこぼるゝなど、云ひがたき佳きおもむきあり。梅は白きこそよけれ紅なるは好ましからずなんど賢《さか》しげにいふ人は、心ざまむげに賤し。花は彼此をくらべて甲乙をいふべきものかは。
牡丹
牡丹は人の力の現はるゝ花なり。打捨て置きては、よきものも漸く悲しき花のさまになり行けど、培ひ養ふこと怠らねば、おのづからなる美しさも一トしほ増して、おだやかなる日の光りの下に、姿ゆたけく咲き出でたる、憂き世の物としも無くめでたし。ひとへざきなるも好く、八重ざきなるも好く、やぐらざきなるも好し。此花のすぐれて美しきを見るごとに、人の力といふものも、さて価低からぬも
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