に於て再思したまえ。と憚《はばか》るところ無く白《もう》しける。されど燕王答えたまわねば、数次《しばしば》書を上《たてまつ》りけるが、皆|効《かい》無かりけり。
巍の書、人情の純、道理の正しきところより言を立つ。知らず燕王の此《これ》に対して如何《いかん》の感を為せるを。たゞ燕王既に兵を起し戦《たたかい》を開く、巍の言《ことば》善《よ》しと雖も、大河既に決す、一葦《いちい》の支え難きが如し。しかも巍の誠を尽し志を致す、其意と其|言《げん》と、忠孝|敦厚《とんこう》の人たるに負《そむ》かず。数百歳の後、猶《なお》読む者をして愴然《そうぜん》として感ずるあらしむ。魏と韓郁《かんいく》とは、建文の時に於て、人情の純、道理の正《まさ》に拠りて、言《げん》を為せる者也。
年は新《あらた》になりて建文二年となりぬ。燕《えん》は洪武《こうぶ》三十三年と称す。燕王は正月の酷寒に乗じて、蔚州《いしゅう》を下し、大同《だいどう》を攻む。景隆《けいりゅう》師を出して之《これ》を救わんとすれば、燕王は速く居庸関《きょようかん》より入りて北平《ほくへい》に還《かえ》り、景隆の軍、寒苦に悩み、奔命に疲れて
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