大義を忘れ、寡を以て衆に抗し、為《な》す可からざるの悖事《はいじ》を僥倖《ぎょうこう》するを敢《あえ》てしたまわば、臣大王の為に言《もう》すべきところを知らざる也《なり》。況《いわ》んや、大喪の期未だ終らざるに、無辜《むこ》の民驚きを受く。仁を求め国を護《まも》るの義と、逕庭《けいてい》あるも亦《また》甚《はなはだ》し。大王に朝廷を粛清するの誠意おわすとも、天下に嫡統を簒奪《さんだつ》するの批議無きにあらじ。もし幸《さいわい》にして大王敗れたまわずして功成りたまわば、後世の公論、大王を如何《いかん》の人と謂《い》い申すべきや。巍は白髪の書生、蜉蝣《ふゆう》の微命《びめい》、もとより死を畏《おそ》れず。洪武十七年、太祖高皇帝の御恩《ぎょおん》を蒙《こうむ》りて、臣が孝行を旌《あらわ》したもうを辱《かたじけな》くす。巍|既《すで》に孝子たる、当《まさ》に忠臣たるべし。孝に死し忠に死するは巍の至願也。巍幸にして天下の為に死し、太祖在天の霊に見《まみ》ゆるを得ば、巍も亦以て愧《はじ》無かるべし。巍至誠至心、直語して諱《い》まず、尊厳を冒涜《ぼうとく》す、死を賜うも悔《くい》無し、願わくは大王今
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