く》より正平《しょうへい》に及び、勢威|大《おおい》に張る。明の太祖の辺海|毎《つね》に和寇《わこう》に擾《みだ》さるゝを怒りて洪武十四年、日本を征せんとするを以《もっ》て威嚇《いかく》するや、王答うるに書を以てす。其《その》略に曰く、乾坤《けんこん》は浩蕩《こうとう》たり、一主の独権にあらず、宇宙は寛洪《かんこう》なり、諸邦を作《な》して以て分守す。蓋《けだ》し天下は天下の天下にして、一人の天下にあらざる也《なり》。吾《われ》聞く、天朝|戦《たたかい》を興《おこ》すの策ありと、小邦|亦《また》敵を禦《ふせ》ぐの図《と》あり。豈《あに》肯《あえ》て途《みち》に跪《ひざまず》いて之を奉ぜんや。之に順《したが》うも未《いま》だ其|生《せい》を必せず、之に逆《さから》うも未だ其死を必せず、相《あい》逢《あ》う賀蘭山前《がらんさんぜん》、聊《いささか》以《もっ》て博戯《はくぎ》せん、吾何をか懼《おそ》れんやと。太祖書を得て慍《いか》ること甚だしく、真《しん》に兵を加えんとするの意を起したるなり。洪武十四年は我が南朝|弘和《こうわ》元年に当る。時に王既に今川了俊《いまがわりょうしゅん》の為に圧迫
前へ 次へ
全232ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング