つ、と言辞を飾り、情理を綺《いろ》えてぞ奏しける。道衍|少《わか》きより学を好み詩を工《たくみ》にし、高啓《こうけい》と友とし善《よ》く、宋濂《そうれん》にも推奨《すいしょう》され、逃虚子集《とうきょししゅう》十巻を世に留めしほどの文才あるものなれば、道衍や筆を執りけん、或《あるい》は又金忠の輩や詞《ことば》を綴《つづ》りけん、いずれにせよ、柔を外にして剛を懐《いだ》き、己《おのれ》を護《まも》りて人を責むる、いと力ある文字なり。卒然として此《この》書《しょ》のみを読めば、王に理ありて帝に理なく、帝に情《じょう》無くして王に情あるが如く、祖霊も民意も、帝を去り王に就く可《べ》きを覚ゆ。されども擅《ほしいまま》に謝張を殺し、妄《みだり》に年号を去る、何ぞ法を奉ずると云わんや。後苑《こうえん》に軍器を作り、密室に機謀を錬る、これ分《ぶん》に循《したが》うにあらず。君側の奸を掃《はら》わんとすと云うと雖《いえど》も、詔無くして兵を起し、威を恣《ほしいまま》にして地を掠《かす》む。其《その》辞《じ》は則《すなわ》ち可なるも、其実は則ち非なり。飜って思うに斉泰黄子澄の輩の、必ず諸王を削奪せんとす
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