》を動盪《どうとう》しぬ。燕王の宮殿|堅牢《けんろう》ならざるにあらざるも、風雨の力大にして、高閣の簷瓦《えんが》吹かれて空《くう》に飄《ひるがえ》り、※[#「(ぼう+彡)/石」、第4水準2−82−32]然《かくぜん》として地に堕《お》ちて粉砕したり。大事を挙げんとするに臨みて、これ何の兆《ちょう》ぞ。さすがの燕王も心に之を悪《にく》みて色|懌《よろこ》ばず、風声雨声、竹折るゝ声、樹《き》裂くる声、物凄《ものすさま》じき天地を睥睨《へいげい》して、惨として隻語無く、王の左右もまた粛《しゅく》として言《ものい》わず。時に道衍《どうえん》少しも驚かず、あな喜ばしの祥兆《しょうちょう》や、と白《もう》す。本《もと》より此《こ》の異僧道衍は、死生禍福の岐《ちまた》に惑うが如き未達《みだつ》の者にはあらず、膽《きも》に毛も生《お》いたるべき不敵の逸物《いちもつ》なれば、さきに燕王を勧めて事を起さしめんとしける時、燕王、彼は天子なり、民心の彼に向うを奈何《いかん》、とありけるに、昂然《こうぜん》として答えて、臣は天道を知る、何ぞ民心を論ぜん、と云いけるほどの豪傑なり。されども風雨|簷瓦《えんが》を
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