ずば、上命あり、当《まさ》に執《とら》われに就きたもうべし、如《も》し意あらば臣に諱《い》みたもう勿《なか》れと。燕王信の誠《まこと》あるを見、席を下りて信を拝して曰く、我が一家を生かすものは子《し》なりと。信つぶさに朝廷の燕を図るの状を告ぐ。形勢は急転直下せり。事態は既に決裂せり。燕王は道衍《どうえん》を召して、将《まさ》に大事を挙《あ》げんとす。
 天|耶《か》、時《とき》耶、燕王の胸中|颶母《ばいぼ》まさに動いて、黒雲《こくうん》飛ばんと欲し、張玉《ちょうぎょく》、朱能《しゅのう》等《ら》の猛将|梟雄《きょうゆう》、眼底紫電|閃《ひらめ》いて、雷火発せんとす。燕府《えんぷ》を挙《こぞ》って殺気|陰森《いんしん》たるに際し、天も亦《また》応ぜるか、時|抑《そも》至れるか、※[#「風にょう+炎」、第4水準2−92−35]風《ひょうふう》暴雨卒然として大《おおい》に起りぬ。蓬々《ほうほう》として始まり、号々として怒り、奔騰狂転せる風は、沛然《はいぜん》として至り、澎然《ほうぜん》として瀉《そそ》ぎ、猛打乱撃するの雨と伴《とも》なって、乾坤《けんこん》を震撼《しんかん》し、樹石《じゅせき
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