曰く、吾《われ》聞く、前代の大臣の吏に下さるゝや、多く自ら引決すと。身は高皇帝の子にして、南面して王となる、豈《あに》能《よ》く僕隷《ぼくれい》の手に辱《はずか》しめられて生活を求めんやと。遂《つい》に宮《きゅう》を闔《と》じて自ら焚死《ふんし》す。斉王《せいおう》榑《ふ》もまた人の告ぐるところとなり、廃せられて庶人となり、代王|桂《けい》もまた終《つい》に廃せられて庶人となり、大同《だいどう》に幽せらる。
 燕王は初《はじめ》より朝野の注目せるところとなり、且《かつ》は威望材力も群を抜けるなり、又|其《そ》の終《つい》に天子たるべきを期するものも有るなり、又|私《ひそか》に異人術士を養い、勇士|勁卒《けいそつ》をも蓄《たくわ》え居《お》れるなり、人も疑い、己《おのれ》も危ぶみ、朝廷と燕と竟《つい》に両立する能《あた》わざらんとするの勢あり。されば三十一年の秋、周王|※[#「木+肅」、UCS−6A5A、282−3]《しゅく》の執《とら》えらるゝを見て、燕王は遂に壮士《そうし》を簡《えら》みて護衛となし、極めて警戒を厳にしたり。されども斉泰黄子澄に在りては、もとより燕王を容《ゆる》す能わ
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