かんと云い、香《こう》を孝陵《こうりょう》に進めて、而して吾が誠実を致さんと云うに至っては、蓋《けだ》し辞柄《じへい》無きにあらず。諸王は合同の勢あり、帝は孤立の状あり。嗚呼《ああ》、諸王も疑い、帝も疑う、相疑うや何ぞ※[#「目+癸」、第4水準2−82−11]離《かいり》せざらん。帝も戒め、諸王も戒む、相戒むるや何ぞ疎隔《そかく》せざらん。疎隔し、※[#「目+癸」、第4水準2−82−11]離す、而して帝の為《ため》に密《ひそか》に図るものあり、諸王の為に私《ひそか》に謀るものあり、況《いわ》んや藩王を以《もっ》て天子たらんとするものあり、王を以て皇となさんとするものあるに於《おい》てをや。事|遂《つい》に決裂せずんば止《や》まざるものある也。
 帝の為《ため》に密《ひそか》に図る者をば誰《たれ》となす。曰《いわ》く、黄子澄《こうしちょう》となし、斉泰《せいたい》となす。子澄は既に記しぬ。斉泰は※[#「さんずい+栗」、第4水準2−79−2]水《りっすい》の人、洪武十七年より漸《ようや》く世に出《い》づ。建文帝|位《くらい》に即きたもうに及び、子澄と与《とも》に帝の信頼するところとなりて、
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