をも猜《すい》せしむ。仁明孝友、天下心を帰す、と云えるは、何ぞや。明《みん》の世を治むる、纔《わずか》に三十一年、元《げん》の裔《えい》猶《なお》未《いま》だ滅びず、中国に在るもの無しと雖《いえど》も、漠北《ばくほく》に、塞西《さいせい》に、辺南《へんなん》に、元の同種の広大の地域を有して※[#「足へん+番」、第4水準2−89−49]踞《ばんきょ》するもの存し、太祖崩じて後二十余年にして猶大に興和《こうわ》に寇《あだ》するあり。国外の情《じょう》是《かく》の如し。而《しこう》して域内の事、また英主の世を御せんことを幸《さいわい》とせずんばあらず。仁明孝友は固《もと》より尚《たっと》ぶべしと雖も、時勢の要するところ、実は雄材大略なり。仁明孝友、天下心を帰するというと雖も、或《あるい》は恐る、天下を十にして其の心を帰する者七八に過ぎざらんことを。中外文武臣僚、心を同じゅうして輔祐《ほゆう》し、以《もっ》て吾《わ》が民を福《さいわい》せよ、といえるは、文武臣僚の中、心を同じゅうせざる者あるを懼《おそ》るゝに似たり。太祖の心、それ安んぜざる有る耶《か》、非《ひ》耶《か》。諸王は国中に臨《なげ》
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