しめんとなり。諸王は国中に臨《なげ》きて、京に至るを得る無かれ、と云えるは、蓋《けだ》し其《その》意《い》諸王其の封を去りて京に至らば、前代の遺※[#「薛/子」、第3水準1−47−55]《いげつ》、辺土の黠豪《かつごう》等、或《あるい》は虚に乗じて事を挙ぐるあらば、星火も延焼して、燎原《りょうげん》の勢を成すに至らんことを虞《おそ》るるに似たり。此《こ》も亦《また》愛民憂世の念、おのずから此《ここ》に至るというべし。太祖の遺詔、嗚呼《ああ》、何ぞ人を感ぜしむるの多きや。


 然《しか》りと雖《いえど》も、太祖の遺詔、考う可《べ》きも亦《また》多し。皇太孫|允※[#「火+文」、第4水準2−79−61]《いんぶん》、天下心を帰す、宜《よろ》しく大位に登るべし、と云《い》えるは、何ぞや。既に立って皇太孫となる。遺詔無しと雖も、当《まさ》に大位に登るべきのみ。特に大位に登るべしというは、朝野の間、或《あるい》は皇太孫の大位に登らざらんことを欲する者あり、太孫の年|少《わか》く勇《ゆう》乏しき、自ら謙譲して諸王の中《うち》の材雄に略大なる者に位を遜《ゆず》らんことを欲する者ありしが如《ごと》き
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