ほしいいまま》にして、空中に楼閣を築き、夢裏《むり》に悲喜を画《えが》き、意設筆綴《いせつひってつ》して、烏有《うゆう》の談を為《つく》る。或は微《すこ》しく本《もと》づくところあり、或は全く拠《よ》るところ無し。小説といい、稗史《はいし》といい、戯曲といい、寓言《ぐうげん》というもの即《すなわ》ち是《これ》なり。作者の心おもえらく、奇を極め妙を極むと。豈《あに》図《はか》らんや造物の脚色は、綺語《きご》の奇より奇にして、狂言の妙より妙に、才子の才も敵する能《あた》わざるの巧緻《こうち》あり、妄人の妄も及ぶ可からざるの警抜あらんとは。吾が言をば信ぜざる者は、試《こころみ》に看《み》よ建文《けんぶん》永楽《えいらく》の事を。
我が古《こ》小説家の雄《ゆう》を曲亭主人馬琴《きょくていしゅじんばきん》と為《な》す。馬琴の作るところ、長篇四五種、八犬伝《はっけんでん》の雄大、弓張月《ゆみはりづき》の壮快、皆|江湖《こうこ》の嘖々《さくさく》として称するところなるが、八犬伝弓張月に比して優《まさ》るあるも劣らざるものを侠客伝《きょうかくでん》と為《な》す。憾《うら》むらくは其の叙するところ
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