書、何ぞ信ずるに足らん。仮令《たとえ》数ありとするも、測り難きは数なり。測り難きの数を畏《おそ》れて、巫覡卜相《ふげきぼくそう》の徒の前に首《こうべ》を俯《ふ》せんよりは、知る可きの道に従いて、古聖前賢の教《おしえ》の下《もと》に心を安くせんには如《し》かじ。かつや人の常情、敗れたる者は天の命《めい》を称して歎《たん》じ、成れる者は己の力を説きて誇る。二者共に陋《ろう》とすべし。事敗れて之《これ》を吾《わ》が徳の足らざるに帰し、功成って之を数の定まる有るに委《ゆだ》ねなば、其《その》人《ひと》偽らずして真《しん》、其|器《き》小ならずして偉なりというべし。先哲|曰《いわ》く、知る者は言わず、言う者は知らずと。数を言う者は数を知らずして、数を言わざる者|或《あるい》は能《よ》く数を知らん。
 古《いにしえ》より今に至るまで、成敗《せいばい》の跡、禍福の運、人をして思《おもい》を潜《ひそ》めしめ歎《たん》を発せしむるに足《た》るもの固《もと》より多し。されども人の奇を好むや、猶《なお》以《もっ》て足れりとせず。是《ここ》に於《おい》て才子は才を馳《は》せ、妄人《もうじん》は妄《もう》を恣《
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