、蓋《けだ》し未《いま》だ十の三四を卒《おわ》るに及ばずして、筆硯《ひっけん》空しく曲亭の浄几《じょうき》に遺《のこ》りて、主人既に逝《ゆ》きて白玉楼《はくぎょくろう》の史《し》となり、鹿鳴草舎《はぎのや》の翁《おきな》これを続《つ》げるも、亦《また》功を遂げずして死せるを以《もっ》て、世|其《そ》の結構の偉《い》、輪奐《りんかん》の美を観《み》るに至らずして已《や》みたり。然《しか》れども其の意を立て材を排する所以《ゆえん》を考うるに、楠氏《なんし》の孤女《こじょ》を仮《か》りて、南朝の為《ため》に気を吐かんとする、おのずから是《こ》れ一大文章たらずんば已《や》まざるものあるをば推知するに足るあり。惜《おし》い哉《かな》其の成らざるや。
 侠客伝は女仙外史《じょせんがいし》より換骨脱胎《かんこつだったい》し来《きた》る。其の一部は好逑伝《こうきゅうでん》に藉《よ》るありと雖《いえど》も、全体の女仙外史を化《か》し来《きた》れるは掩《おお》う可《べ》からず。此《これ》の姑摩媛《こまひめ》は即《すなわ》ち是《こ》れ彼《かれ》の月君《げっくん》なり。月君が建文帝《けんぶんてい》の為に兵を挙
前へ 次へ
全232ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング