九月、懿文太子の後を承《う》けて其《その》御子《おんこ》允※[#「火+文」、第4水準2−79−61]皇太孫の位に即《つ》かせたもう。継紹《けいしょう》の運まさに是《かく》の如くなるべきが上に、下《しも》は四海の心を繋《か》くるところなり。上《かみ》は一|人《にん》の命《めい》を宣したもうところなり、天下皆喜びて、皇室万福と慶賀したり。太孫既に立ちて皇太孫となり、明らかに皇儲《こうちょ》となりたまえる上は、齢《よわい》猶《なお》弱くとも、やがて天下の君たるべく、諸王|或《あるい》は功あり或は徳ありと雖《いえど》も、遠からず俯首《ふしゅ》して命《めい》を奉ずべきなれば、理に於《おい》ては当《まさ》に之《これ》を敬すべきなり。されども諸王は積年の威を挟《はさ》み、大封の勢《いきおい》に藉《よ》り、且《かつ》は叔父《しゅくふ》の尊きを以《もっ》て、不遜《ふそん》の事の多かりければ、皇太孫は如何《いか》ばかり心苦しく厭《いと》わしく思いしみたりけむ。一日《いちじつ》東角門《とうかくもん》に坐して、侍読《じどく》の太常卿《たいじょうけい》黄子澄《こうしちょう》というものに、諸王|驕慢《きょうまん》
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