なげ》きたまい、今はとて火を大内《たいだい》に放たせたもう。皇后は火に赴きて死したまいぬ。此《この》時《とき》程済は辛くも篋《かたみ》を砕き得て、篋中《きょうちゅう》の物を取出《とりいだ》す。出《い》でたる物は抑《そも》何ぞ。釈門《しゃくもん》の人ならで誰《たれ》かは要すべき、大内などには有るべくも無き度牒《どちょう》というもの三|張《ちょう》ありたり。度牒は人の家を出《いで》て僧となるとき官の可《ゆる》して認むる牒にて、これ無ければ僧も暗き身たるなり。三張の度牒、一には応文《おうぶん》の名の録《ろく》され、一には応能《おうのう》の名あり、一には応賢《おうけん》の名あり。袈裟《けさ》、僧帽、鞋《くつ》、剃刀《かみそり》、一々|倶《とも》に備わりて、銀十|錠《じょう》添わり居《い》ぬ。篋《かたみ》の内に朱書あり、之《これ》を読むに、応文は鬼門《きもん》より出《い》で、余《よ》は水関《すいかん》御溝《ぎょこう》よりして行き、薄暮にして神楽観《しんがくかん》の西房《せいぼう》に会せよ、とあり。衆臣驚き戦《おのの》きて面々|相《あい》看《み》るばかり、しばらくは言《ものい》う者も無し。やゝあり
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