。衍曰く、南に方孝孺《ほうこうじゅ》あり、学行《がくこう》あるを以《もっ》て聞《きこ》ゆ、王の旗城下に進むの日、彼必ず降《くだ》らざらんも、幸《さいわい》に之を殺したもう勿《なか》れ、之を殺したまわば則《すなわ》ち天下の読書の種子《しゅし》絶えんと。燕王これを首肯《しゅこう》す。道衍の卓敬に於《お》ける、私情の憎嫉《ぞうしつ》ありて、方孝孺に於ける、私情の愛好あるか、何ぞ其の二者に対するの厚薄あるや。孝孺は宗濂《そうれん》の門下の巨珠にして、道衍と宋濂とは蓋《けだ》し文字の交あり。道衍の少《わか》きや、学を好み詩を工《たくみ》にして、濂の推奨するところとなる。道衍|豈《あに》孝孺が濂の愛重《あいちょう》するところの弟子《ていし》たるを以て深く知るところありて庇護《ひご》するか、或《あるい》は又孝孺の文章学術、一世の仰慕《げいぼ》するところたるを以て、之《これ》を殺すは燕王の盛徳を傷《やぶ》り、天下の批議を惹《ひ》く所以《ゆえん》なるを慮《はか》りて憚《はばか》るか、将《はた》又真に天下読書の種子の絶えんことを懼《おそ》るゝか、抑《そもそも》亦孝孺の厳※[#「厂+萬」、第3水準1−14−
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